今回は、兵庫県にお住まいのお客様より買取させていただいた音丸耕堂の木彫硯箱を紹介します。丁寧に保存されていて作品状態は良好でしたので、高価買取することができました。
☆音丸耕堂とは
音丸耕堂は、大正から昭和にかけて活躍した彫漆家です。伝統的な彫漆芸能を発展させた功労者であり、国から人間国宝に選ばれました。彫漆文化が発展している香川県に生まれ、青年時代から先達の彫漆家に弟子入りし、下積みの時を過ごしました。彫漆にしろ絵画にしろ、技術はある程度基本というものがありますが、この吸収力溢れる若い時代に彫漆の技術を盗んで身に着けていったのでしょう。やがて独立した音丸耕堂は、著明な作家の作品を参考にするなど独学で彫漆の技術を深めていきました。
彫漆はもともと唐の時代の中国から由来したもので、仏具などの漆器類にその技術が使われていました。色漆を数十回から数百回と何層も重ねて塗り、それを彫漆専用の彫刻刀で削りだすことによって立体感が表現されます。気の遠くなるような手間と時間をかけることによりできるその模様は、彫漆独特の存在感を醸しだします。音丸耕堂は、この色漆の色彩の幅を広げたり、漆に金銀の粉の沈殿を利用して模様をつくったり、削り角度の傾斜により漆の模様に変化をつけたりするなど、彫漆の可能性を広げていったのです。
彼の作品のひとつである「彫漆銀連糸茶入」は、立体的な花びら模様が大小それぞれに配置されていて、見事に花の華やかさや息吹を感じさせます。「彫漆紫陽花茶器」は、茶器という存在を超えて、さながら咲き誇る紫陽花のようです。音丸耕堂は、生き物や花など自然をテーマに掲げている作品を多く世に送り出していますが、彫漆特有の立体感や色合いを突き詰めることにより、自然の美しさを表現しているとされています。
現在でも彫漆の技術は日々新しくなっていますが、そのコンセプトに繋がっているのが音丸耕堂の彫漆です。弟子たちは、この技術を根本に据え置きながら、自分の世界をより強く、美しく表現すべく腕を磨いています。
☆音丸耕堂の木彫硯箱
彫漆の匠である音丸耕堂によってつくられた木彫硯箱は、まるで模様が箱の面から飛び出してきそうなほどの立体感を醸し出しています。この美しい雰囲気は、漆から生み出されるものです。そもそも漆は、漆の木からしみだしてくる樹液を原料として作られています。この採取したばかりの樹液の色調は、乳白色というシンプルな色合いを呈しています。これが大気に触れ酸化することにより茶色や黒色の性質を帯びてくるのです。他にも様々な素材を加えることにより、赤色や黄色などの色を漆につけることができます。
主に彫漆で用いられるのは黒色と赤色ですが、実はそれぞれ意味を持っています。黒は、普段の生活・日常を表しており、赤は血液、つまり命を表しています。これら普遍的な概念を元に、各々の作家たちの心を通して彫漆が形になっていくのです。音丸耕堂の手によって幾度も幾度も漆を塗り重ねられたこの木彫硯箱は、漆に込められた崇高な精神世界をより表現しているかのようです。
また、音丸耕堂は芸術に対してこんな言葉を残しています。「日本文化の根本は、“間”である」この「間」という言葉は、彫漆という手法そのものにおけるものでもあり、また作品を持つ人と作品自体との間でもあります。人間国宝の残したこの木彫硯箱から、文化の根本に触れることができるでしょう。
☆さいごに
日晃堂では音丸耕堂や室瀬和美のほか、幅広い世代の木彫彫漆を取り扱っております。売却をご検討の際は、ぜひ日晃堂に気軽にお問い合わせください。日晃堂は音丸耕堂に限らず木彫硯箱であれば高価買取が可能です。