東郷青児(とうごう せいじ)1897年-1978年
東郷青児は、初期には未来派風の前衛的な絵画を描き、後期にはモダンな女性像を得意とした洋画家です。特に「青児美人」と呼ばれる、「白い肌」や「赤い唇」を強調した女性像は、多くの人々の心を捉えました。東京を拠点にフランスや世界各地の旅を通じ、多彩な作品を残しています。戦後は昭和期を代表する美人画家として高い評価と人気を得ました。雑誌『婦人公論』や『婦人画報』の表紙や挿絵、洋菓子の包装紙などのデザインも手がけ、一躍その名が広がりました。
異国への憧れと郷愁を描いたモダンな美人画家
東郷青児は1897年、鹿児島県鹿児島市に生まれました。幼少時に一家は東京に転居し、青山学院中等部を卒業。その後、竹久夢二や有島生馬と交流し、18歳で初個展を開きます。 19歳のときに描いた『パラソルさせる女』は、二科展で初出品にして二科賞を受賞しました。一見何が描かれているかわからないが、よく見ると中央に女性の顔があり、パラソルを持っている姿が浮かんできます。この作品は、日本の前衛絵画の先駆けと言われています。 24歳から7年間フランスに留学し、ピカソや未来派の画家たちの影響を受け、西洋絵画の伝統技法を学びました。帰国後は震災から復興した、東京のモダニズム文化に影響を受け、甘美な女性像が、雑誌や包装紙デザインなどに使用されます。これにより昭和を代表する美人画家として名を馳せました。
1960年代からは毎年のように海外を訪れた東郷青児は、その中でアフリカやアラブ諸国などの風俗や風景に惹かれていったそうです。1974年にはアルジェリアのタッシリ砂漠を探訪し、各地でスケッチを重ね、作品を描き続けました。 1969年には、フランス政府から「芸術文化勲章」を1976年には「勲二等旭日重光章」を授与。日本芸術院会員や二科会会長として後進の指導にもあたり、1978年に熊本で客死されるまで、精力的に制作活動を続けました。
東郷青児の代表作
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「望郷」
望郷は、東郷青児が62歳の時に制作した油彩画です。古代ギリシャの神殿のような遺跡の前にたたずむ女性が描かれています。目を閉じてうつむき、頬に手を当てる女性の表情が、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。画面は油絵とは思えないほど、滑らかに仕上げました。この作品は、第5回日本国際美術展で一般入場者の投票による「大衆賞」を受賞しています。この作品を発表以降、「青児美人」と呼ばれる、甘美でロマンティックな女性像を多く描きました。これらは「東郷様式」として知られるようになり、代表的な作風として評価されています。
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「超現実派の散歩」
1929年に制作された油彩画で、二科展に出品された作品です。フランス滞在中にピカソや超現実主義の画家と交流し、その影響を受けて帰国後発表された作品が「超現実派の散歩」です。男性が宙に浮かび月を仰ぐ姿が描かれ、シンプルな色彩が現実と夢の境界を曖昧にし、不思議な世界観を表現しています。所蔵されるSOMPO美術館には、「美術がもたらす心の自由を大切にしたい」という想いから、モチーフがシンボルマークとして採用されています。
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