香月泰男は、1911年に山口県大津郡三隅町（現・長門市）に生まれました。
1931年に東京美術学校（現・東京芸術大学）に入学、藤島武二の教室で学んだ香月は、戦前は明るい色彩を持ち合わせた作品でした。
その後31歳で太平洋戦争の勃発により召集され、満州（現・中国東北部）で従軍し、敗戦後シベリアへ輸送され、1年9ヶ月に及ぶシベリア抑留の生活が始まります。 この時期の戦争と抑留という悲惨な経験は、その後の画業に決定的な影響を与えるのです。

1947年にシベリア抑留から引き揚げ、念願の故郷・三隅へ戻りました。数点のシベリア・シリーズを手掛けますが、その当時は愛する家族の日常風景や、海や魚など明るい色彩の作風でした。
飼い犬や食材など、絵になりそうなモチーフを好んで描き「台所の画家」と呼ばれていたほどです。そして、1960年代頃から「シベリア・シリーズ」の制作を再開。 木炭などを油絵の具に混ぜて、シベリアの凍土や荒野、運搬作業や食事風景などを表現しました。
黒色と黄土色を基調とした重厚な画風の全57点の作品は、シベリアでの体験が心と身体に深く刻まれたことが伝わってきます。 1969年、シベリア・シリーズが第1回日本芸術大賞を受賞し、「シベリアの画家」としての地位を確立しました。 その作品は、今もなお見る者に強烈な印象を与え続けています。