石魯(せきろ)1919年–1982年
石魯は、20世紀半ばの中国で活躍した画家です。
本名は馮亜珩ですが、画家の石濤と作家の魯迅を尊敬し、彼らからそれぞれ字をとった「石魯」という号を名乗りました。
石魯の特徴は、見る人の目を射る鮮やかな色遣いと、噛みつくような荒々しい筆致にあります。文化大革命の時代(1960~1970年代)にはその作風が紅衛兵に批判されて不遇の時を過ごしますが、現在では現代絵画におけるユニークな作家のひとりとして認められており、その作品は高い価値を持ちます。
荒々しい自然の姿にこだわった悲劇の画家
1919年、石魯は中国四川省で生まれました。
1930年代の中盤から陝西省延安で絵画を学んでその才能を開花させ、一時期は新進気鋭の画家として将来を嘱望されます。
1959年、40歳のときには、国から革命の英雄である毛沢東を称える絵画が欲しいという依頼を受けて「轉戰陝北」を制作します。 石魯は、陝北地方の雄大な山の風景と、その中に小さいながらも雄々しく立つ毛沢東の姿を描きました。この作品は中国革命博物館に展示されると大きな話題を呼び、称賛を浴びることになりました。
しかし、毛沢東の姿を小さく描き、崖の突端に立たせたことがのちのち不幸を呼びます。 国家主席となった毛沢東が強権的な文化・政治運動として進めた文化大革命(文革)の時代、この絵画は批判されて博物館の物置に放り込まれます。 同時に、荒々しい筆致で自然を描く石魯の絵画そのものが激しい批判の的になりました。
文化運動といいつつ、実際のところ残酷な政治的弾圧に過ぎなかった文革は、近現代中国の“黒歴史”のひとつであり、多くの画家や芸術家がその犠牲となりました。 石魯もそのひとりであり、批判を受けた文化人や芸術家を強制収容する施設「牛舎」に送り込まれました。しかし、何度か脱走。いったんは死刑判決を下されることになりますが、統合失調症を発症していることが明らかになって極刑は免れ、以後は病院の入退院を繰り返すことになります。
そんな石魯は入退院中も絵画制作は続け、1982年に亡くなるまで絵筆を手放すことはありませんでした。
石魯の代表作
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「南泥湾途中」
1961年に描かれた作品で、戦火の時代に南泥湾に向けて行軍する兵士たちの姿を描いています。しかしその主題はむしろいつの時代も気高く荒々しい姿を見せる風景そのものであり、果てしなく広がる山嶺が圧倒的な筆致で表現されています。
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「轉戰陝北」
1959年、石魯が中国革命博物館に委託されて描いた作品です。
荒々しい筆致ながらも、陝北の地に広がる雄大な山々の中で革命の英雄・毛沢東が毅然と立っている姿が格調高く描かれています。 現在は、中国国立博物館に所蔵されています。 文革の犠牲となったこの作品は、雑に扱われたためにボロボロになっていましたが、2011年に丁寧な修復を受け、現在では当時の姿をよみがえらせています。
その他、「華岳之雄」「荷雨図」などが代表作として知られています。
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