川瀬巴水(かわせはすい)1883年–1957年
川瀬巴水は、大正・昭和期に活躍した日本画家です。
江戸時代に流行した浮世絵の再興を志して「新版画」を創始したという功績があります。少年時代から画家を志して浮世絵に親しみ、浮世絵の構図やモチーフに西洋画の技法をたくみに組み込んだ独特の世界観を編み出しました。その作品は高い価値を誇り、特に海外では江戸時代の浮世絵師・歌川広重や葛飾北斎に並ぶ存在として知られています。
「新版画」を創始した近代浮世絵師
1883年、川瀬巴水は東京都に生まれました。
江戸時代末期から明治初期にかけて活躍した戯作者・仮名垣魯文を伯父に持つ影響もあり、江戸文化に親しむ生活を送ります。
そんな中、特に巴水が興味を持ったのは浮世絵であり、14歳で日本画の勉強を開始。その後、27歳で美人画の巨匠・鏑木清方に弟子入りします。
実は25歳の頃に入門を願い出たものの、「年が行き過ぎているから」という理由で清方に断られ、西洋画をすすめられて学んでみたもののまったく肌に合わず、2年後に再び門を叩いたという経緯があります。
こうして日本画家としてキャリアをスタートさせた巴水でしたが、人物画の分野では鏑木清方の美人画には及ばないことを悟り、風景画を研究するようになります。 また、清方に並ぶ画家として有名だった伊東深水の版画に影響を受け、風景版画の道を歩み始めます。 風景版画のデビュー作は、「塩原おかね路」をはじめ栃木県の塩原(現在の那須塩原市)の風景をモチーフにした作品でした。
その後、浮世絵版画を制作・販売していた渡辺版画店から数多くの作品を発表しています。 1923年に起きた関東大震災ではスケッチや版画のもとになる版木が数多く失われ、しばし呆然と失意の時を過ごしますが、気を取り直して創作活動を再開し、のちに海外で高く評価されることになる作品を含め、数多くの版画作品を生み出しました。 1957年、74歳で生涯を閉じるまで精力的に創作活動を続けています。
川瀬巴水の代表作
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「芝 増上寺」
徳川将軍家の菩提寺であった増上寺は江戸の名所で、ここを舞台にした浮世絵が数多く制作されました。川瀬巴水もまた、新版画でその風景を描くことを試みています。 「横殴りに降る雪」「傘をすぼめて歩く着物姿の女性」という古き良き浮世絵のモチーフを使いつつ、女性の身のこなしや雪片の描写、さらに増上寺の建物に刻まれた繊細な陰影などに、西洋画の影響がうかがえます。浮世絵をアップデートさせた新版画の代表的な作品といえます。
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「塩原おかね路」
栃木県の塩原(現在の那須塩原市)の山路を表現した作品で、巴水の版画家としてのデビュー作にあたります。素朴な筆致でありながらも奥行きのある構図、繊細な描き込みが見られる作品で、デビュー作にしてすでに新版画の基礎が出来あがっていたことを示しています。
その他、「潮来の初秋」「曇り日の矢口」などが代表作として知られています。
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